個人事業主から法人へ:法人にかかる税金の種類と個人事業税金との比較ポイント
はじめに:法人化で変わる税金の考え方
個人事業主として事業を営んできた方が法人化する場合、経理処理や法人口座の利用方法だけでなく、税金に関する考え方も大きく変化します。個人事業主の頃は所得税や住民税、個人事業税を中心に考えていた税金が、法人になると法人税、法人住民税、法人事業税といった新たな税金に変わります。
これらの法人税は、個人事業主の頃にはなかった仕組みや計算方法を持つため、「何を知っておけば良いのか」「個人事業主の頃とどう違うのか」といった疑問や不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
このコラムでは、初めて法人経理に取り組む皆様に向けて、法人にかかる主な税金の種類とその概要、そして個人事業主が納める税金との基本的な違いについて、分かりやすく解説します。税金の全体像を把握し、法人化後の経理・申告に向けてスムーズに進むための一助となれば幸いです。
法人にかかる主な税金の種類
法人にかかる税金は複数ありますが、事業を始めたばかりの法人がまず知っておくべき主な税金は以下の3つです。
- 法人税: 法人が得る所得(利益)に対して課される税金です。国税であり、税率は法人の規模や所得金額によって異なります。個人事業主の所得税にあたるものと考えて良いでしょう。
- 法人住民税: 法人の所在地である都道府県や市町村に納める税金です。法人税額に基づいて計算される「法人税割」と、法人の規模(資本金等の額や従業員数)に応じて定額でかかる「均等割」の合計額となります。個人事業主の住民税にあたりますが、均等割という個人にはない負担がある点が特徴です。
- 法人事業税: 法人が行う事業そのものに対して課される税金です。都道府県に納めます。法人の所得などに基づいて計算され、事業規模が大きいほど税額も大きくなる傾向があります。個人事業税と名前は似ていますが、計算方法や非課税になる業種などが異なります。
この他にも、法人には法人にかかる消費税(条件を満たす場合)、印紙税、固定資産税など様々な税金が発生する可能性があります。しかし、まずは上記3つの主要な税金とその基本的な仕組みを理解することが重要です。
個人事業主が納める税金との違い
次に、個人事業主の頃に納めていた税金と、法人にかかるこれらの税金がどのように違うのかを見ていきましょう。
| 項目 | 個人事業主 | 法人 | 主な違い・ポイント | | :----------- | :--------------------------------------------------- | :----------------------------------------------------- | :--------------------------------------------------------------------------------- | | 対象 | 事業主個人の所得 | 法人(会社)の所得 | 税金計算の対象が「個人」か「法人」かに変わります。 | | 主な税金 | 所得税、住民税、個人事業税 | 法人税、法人住民税、法人事業税 | 税金の種類そのものが異なります。 | | 税率 | 所得税は累進課税(所得が高いほど税率が上がる) | 法人税は税率が一定(例外あり)。法人住民税・事業税も算出方法が異なります。 | 個人事業主は所得が増えるほど税率が上がりますが、法人税は原則として所得規模による大きな変動はありません。 | | 計算方法 | 所得税、住民税、個人事業税は「所得」から計算される | 法人税、法人住民税、法人事業税も「所得」などから計算される | 所得の計算方法(経費の範囲など)が個人事業と法人で異なります。 | | 均等割 | なし | 法人住民税の一部にあり(赤字でも発生) | 法人は利益が出ていなくても、法人の規模に応じて一定額の住民税(均等割)が発生します。 | | 事業主の報酬 | 所得そのもの(税務上の経費にならない) | 役員報酬として経費になる(ただし、事前確定届出給与などルールあり) | 事業主自身への支払いが税務上の経費になるかどうかが大きく異なります。 | | 申告・納付 | 主に確定申告(所得税、消費税など) | 法人税申告(法人税、法人住民税、法人事業税、消費税などまとめて) | 法人税申告書1つで複数の税金をまとめて申告・納付する形になります。 |
特に大きな違いは、税金計算の対象が「個人」から「法人」に変わること、そして「役員報酬」という概念が生まれ、それが法人の経費となる一方で、個人事業主の所得税とは別に役員個人の所得税・住民税がかかる点です(これについては別の記事で詳しく解説しています)。
また、法人住民税の「均等割」は、法人が赤字であっても最低限発生する税金であり、これも個人事業主にはない特徴です。
初めての法人税金で意識すべきこと
法人化して初めて法人税金に直面する際に、特に意識しておきたいポイントをいくつかご紹介します。
- 「所得」の計算が異なることを理解する: 個人事業主の所得計算と、法人の所得計算では、経費として認められる範囲や計算ルールが異なります。特に、自分自身の報酬(役員報酬)が経費になる点は大きな違いです。会計ソフトの勘定科目なども法人用に変わるため、個人事業の感覚で処理を進めると税金計算に影響が出ることがあります。
- 均等割の存在を知っておく: たとえ事業が軌道に乗らず赤字になったとしても、法人住民税の均等割は原則として発生します。年間数万円程度ですが、事業計画や資金繰りを考える上で考慮に入れておく必要があります。
- 税金の種類と計算方法の全体像を把握する: 法人税、法人住民税、法人事業税それぞれが、どのような計算方法(所得連動、規模連動など)で算出されるのか、基本的な仕組みを理解しておくことで、将来的な税額の予測や節税対策を検討する上での基礎となります。
- 専門家への相談を検討する: 法人税の計算や申告は、個人事業の確定申告に比べて複雑になる傾向があります。税理士などの専門家へ相談することで、正確な申告ができるだけでなく、税務上のリスクを回避したり、適切なアドバイスを受けたりすることが可能になります。特に設立当初は、税務の専門家のサポートが有効な場合が多くあります。
まとめ
法人化は、事業の成長を後押しする一方で、経理や税務に関する新たな知識や対応が求められます。特に税金については、個人事業主の頃とは異なる法人税、法人住民税、法人事業税といった税金が発生し、その計算方法や仕組みにも違いがあります。
この記事で解説した法人税の種類と個人事業主の税金との比較ポイントが、初めて法人経理に取り組む皆様が税金の全体像を把握し、スムーズなスタートを切るための一助となれば幸いです。
ご自身の事業規模や状況に応じて、必要な税金の知識をさらに深めたり、専門家へ相談したりすることも検討しながら、着実に法人経理を進めていきましょう。