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法人設立にかかった費用の経理:創立費・開業費の基本ガイド

Tags: 法人経理, 設立費用, 創立費, 開業費, 会計処理, 税務, 繰延資産

はじめに

会社設立、誠におめでとうございます。個人事業から法人化された方にとって、法人化は事業のさらなる発展に向けた大きな一歩です。個人事業の頃とは異なり、「法人」という独立した経済主体としてお金のやり取りや経理処理を行うことになります。

個人事業の経験がある方でも、法人特有の経理処理には戸惑うことがあるかもしれません。特に、会社を設立する際にかかった費用は、個人事業では意識しなかった法人独自の会計処理が必要です。これらの費用は、大きく分けて「創立費」と「開業費」という二つの種類に分類され、その処理方法は初年度の税金計算にも影響します。

この記事では、法人設立にかかった費用である「創立費」と「開業費」の基本的な考え方、具体的な内容、そして会計処理と税務上の取り扱いについて、初めて法人経理に触れる方にも分かりやすく解説いたします。

創立費とは?

創立費とは、会社を設立するために要した費用のうち、会社の設立登記が完了するまでに支出した費用を指します。

具体的には、以下のような費用が創立費に含まれる可能性があります。

これらの費用は、会社が事業を開始するための基盤を作るために不可欠な支出です。個人事業においては、開業前にかかった費用を「開業費」として繰延資産に計上することがありますが、法人においては設立登記完了までにかかった費用を「創立費」として区別します。

会計上の扱い

創立費は、会計上は原則として「繰延資産」として扱われます。「繰延資産」(くりのべしさん)とは、費用として支出されたものの、その効果が将来にわたって及ぶと考えられる特定の費用を、一時的に資産として計上するものです。貸借対照表の資産の部に計上されます。

税務上の扱い

税務上も創立費は繰延資産とされ、償却(費用化)することが認められています。税務上の大きな特徴は、その償却方法が任意償却とされている点です。任意償却とは、支出の効果が及ぶ期間(通常5年)にわたって均等に償却することもできますし、支出した事業年度にその全額を償却(費用として計上し、損金に算入)することも可能である、という特別な扱いを指します。

設立初年度は売上がまだ少ない、あるいは赤字になる可能性も考えられます。そのような場合に、創立費を全額償却することで、その期の所得を圧縮し、法人税などの負担を軽減できる可能性があります。

開業費とは?

開業費とは、会社を設立するために要した費用のうち、会社の設立登記が完了した後から、事業を開始するまでの間に支出した費用を指します。

具体的には、以下のような費用が開業費に含まれる可能性があります。

これらの費用は、会社が実際に事業活動を行うための準備段階で発生する支出です。

個人事業においても「開業費」という概念はありますが、法人の開業費とは定義や税務上の扱いが異なる場合があります。個人事業の開業費は税務上、任意償却ではなく均等償却(5年間での償却)が原則とされています(ただし、こちらも任意償却が認められる運用が一般的です)。法人の開業費は、税務上も明確に任意償却が認められています。

会計上の扱い

開業費も、会計上は原則として「繰延資産」として扱われます。創立費と同様に、貸借対照表の資産の部に計上されます。

税務上の扱い

税務上も開業費は繰延資産とされ、創立費と同様に任意償却が認められています。支出した事業年度に全額を費用計上(損金算入)することも、複数年で償却することも可能です。

創立費・開業費の会計処理(仕訳例)

創立費も開業費も、支出した時点では「繰延資産」という資産の勘定科目で処理し、決算時にその一部または全部を費用化(償却)するという流れが一般的です。

ここでは、設立時にかかった費用を現金で支払った場合の基本的な仕訳例をご紹介します。

費用を支払った時の仕訳

例えば、会社の設立登記費用として10万円を現金で支払った場合、これは創立費に該当します。

| 勘定科目 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 | 摘要 | | -------- | ------- | -------- | ------- | -------------- | | 創立費 | 100,000 | 現金 | 100,000 | 設立登記費用 |

次に、事業開始前の市場調査費用として5万円を現金で支払った場合、これは開業費に該当します。

| 勘定科目 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 | 摘要 | | -------- | ------ | -------- | ------ | ---------------- | | 開業費 | 50,000 | 現金 | 50,000 | 事業開始前市場調査 |

このように、支出した時点では「創立費」または「開業費」という資産の勘定科目で処理します。会計ソフトを使用している場合は、「創立費」「開業費」といった勘定科目が用意されていることが多いです。

決算時の償却処理

これらの創立費・開業費は、決算時に費用化(償却)します。税務上の任意償却を利用して、支出した事業年度に全額を費用として計上する場合の仕訳は以下のようになります。

例えば、創立費として計上した10万円の全額を償却する場合です。

| 勘定科目 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 | 摘要 | | ------------ | ------- | -------- | ------- | -------------- | | 創立費償却 | 100,000 | 創立費 | 100,000 | 創立費の償却 |

次に、開業費として計上した5万円の全額を償却する場合です。

| 勘定科目 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 | 摘要 | | ------------ | ------ | -------- | ------ | -------------- | | 開業費償却 | 50,000 | 開業費 | 50,000 | 開業費の償却 |

「創立費償却」「開業費償却」は費用(損益計算書)の勘定科目です。この仕訳を行うことで、「創立費」「開業費」という資産(貸借対照表)の残高が減少し、代わりに「創立費償却」「開業費償却」という費用が増加します。これが損金算入(税金の対象となる所得から差し引くこと)につながります。

全額ではなく、例えば一部だけを償却したり、均等償却を選択したりすることも可能ですが、初年度に全額償却するケースが多いです。

領収書等の保管と注意点

創立費や開業費として処理する費用についても、他の経費と同様に支出の証拠となる書類(領収書、請求書、契約書など)を必ず保管してください。これらの書類は、税務調査などにおいて支出の事実や金額を証明するために必要となります。

また、設立費用の中には、代表者個人が一時的に立替払いしたものも多いかと思います。個人が立替払いした費用を法人の費用として処理する場合は、法人が個人に対してその金額を支払う必要があります。この際に、立替払いの内容と金額を明らかにするために、立替精算書などを作成しておくことが推奨されます。そして、法人口座から代表者個人の口座へその金額を払い戻す処理を行います。

法人口座と個人口座間の資金移動は、ルールに基づいて適切に行うことが重要です。設立費用に関する立替金精算も、そのルールに沿って処理しましょう。

まとめ

法人設立にかかる「創立費」と「開業費」は、個人事業では意識しなかった法人独自の費用区分であり、会計上は「繰延資産」として計上され、税務上は「任意償却」が認められているという特徴があります。

特に任意償却は、設立初年度の税金計算に影響を与える重要なポイントです。支出した事業年度に全額を費用として計上することで、税負担を軽減できる可能性があります。

これらの費用を適切に経理処理することは、法人の正確な財務状況を把握し、税金計算を正しく行うために不可欠です。支出の内容に応じて、創立費または開業費として正しく分類し、証拠書類の保管も忘れないようにしてください。

初めての法人経理では、慣れない処理に戸惑うことも多いかもしれません。この記事が、設立費用の処理について理解を深める一助となれば幸いです。ご自身の会社の状況に合わせた具体的な処理や、より詳細な税務上の判断については、専門家である税理士などに相談することをおすすめいたします。