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はじめての法人経理:設立後に提出すべき税務署等の書類ガイド

Tags: 法人設立, 届出, 税務署, 税金, 経理

法人設立、おめでとうございます。次に待っている「税務署等への届出」とは?

法人設立登記が完了しましたら、会社という新しい「別人格」が誕生したことになります。事業を開始するにあたり、これまで個人事業主として経験されてきた開業届出書のような手続きだけでなく、法人ならではの様々な手続きが必要となります。その中でも特に重要なのが、税務署や都道府県税事務所、市町村役場などへの各種届出です。

これらの届出は、税務署などが法人としての事業内容、納税義務の有無、税金の計算に必要な情報を把握するために不可欠です。適切な時期にこれらの届出を提出することで、青色申告による節税メリットを享受できたり、源泉所得税の納付手続きを効率化できたりするなど、設立後のスムーズな経理・納税につながります。

個人事業主の場合、基本的には税務署への開業届や青色申告承認申請書が主な税務関連の書類でしたが、法人では提出先や書類の種類が増え、それぞれに提出期限が定められています。初めて法人経理に取り組む方にとっては、どの書類を、いつまでに、どこに提出すれば良いのか、不安に感じられるかもしれません。

この章では、法人設立後に提出すべき主な税務関連の書類に焦点を当て、その種類、提出先、提出期限、そして個人事業との違いについて分かりやすく解説いたします。

なぜ法人設立後に税務署等への届出が必要なのか

個人事業主は税務署に「開業届出書」を提出することで事業を開始したことを知らせますが、法人では登記によって設立されても、それだけでは税務署や地方自治体は法人の存在や事業内容を自動的に把握するわけではありません。

税務署や地方自治体が法人税や法人住民税、法人事業税などを適切に課税・徴収するためには、法人の名称、所在地、代表者、事業目的、資本金の額、事業年度(決算期)、納税地の情報などを正確に把握する必要があります。これらの情報を伝えるための手続きが、各種届出書の提出です。

また、青色申告による税制上の優遇措置を受けるため、従業員や役員に給与などを支払う際に源泉徴収を行うため、あるいは消費税の納税義務に関する情報を伝えるためなど、特定の税務処理を行う上で提出が義務付けられている届出書も多数存在します。

これらの届出を怠ったり、提出期限を過ぎてしまったりすると、青色申告の承認が受けられず特別控除が適用できなかったり、源泉徴収した税金の納付に関する特例が受けられなかったりするなど、税務上の不利益を被る可能性や、場合によっては加算税や延滞税が発生するリスクもあります。

設立後に提出すべき主な税務関連の届出書類

法人設立後に提出が必要な税務関連の届出書類は複数ありますが、ここでは特に重要度の高いものをご紹介します。

1. 法人設立届出書

これは、税務署、都道府県税事務所、市町村役場にそれぞれ提出する、法人の設立を知らせる最も基本的な書類です。

この書類には、法人の基本情報のほか、設立の形態(新設、合併など)、事業年度、資本金の額、役員の氏名、事業の目的、設立時の貸借対照表(開始貸借対照表)などを記載します。税務署に提出する際には、会社の登記簿謄本や定款の写しなどを添付する必要があります。都道府県や市町村によって添付書類が異なる場合があるため、事前に確認することをお勧めします。

個人事業主が提出する「開業届出書」に相当する書類ですが、提出先が複数になる点や、記載内容が法人固有のもの(資本金、役員など)になる点が異なります。

2. 青色申告の承認申請書

法人税の確定申告を青色申告で行うための申請書です。青色申告を選択することで、欠損金の繰越控除や繰戻し還付、特定の設備投資に関する特別償却や税額控除など、様々な税務上のメリットを受けることができます。

例えば、4月1日設立で事業年度が3月31日までの法人の場合、設立第1期の提出期限は「設立の日(4月1日)以後3ヶ月を経過した日(7月1日)」と「設立第1期の事業年度終了の日(翌年3月31日)の前日」のうち早い方、つまり7月1日の前日までとなります。設立後すぐに提出することをお勧めします。

個人事業主の場合も青色申告承認申請書を提出しますが、法人の場合は提出期限が個人事業主よりも厳密に定められているため注意が必要です。提出が遅れると、その事業年度は白色申告となり、青色申告のメリットを受けられません。

3. 給与支払事務所等の開設届出書

役員報酬や従業員の給与、税理士やデザイナーへの報酬などを支払う場合に、源泉所得税の徴収義務が発生することを税務署に知らせるための書類です。

役員報酬を支払う予定がある場合は、忘れずに提出が必要です。個人事業主の場合も従業員を雇用するなど給与を支払う場合は同様の届出が必要ですが、法人化に伴い初めて役員報酬を支払うというケースでは、この届出が必須となります。

4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

通常、源泉徴収した所得税は支払った月の翌月10日までに納付する必要がありますが、この申請書を提出し承認されると、給与等を支払う従業員が常時10人未満の場合に限り、1月から6月分を7月10日まで、7月から12月分を翌年1月20日までの年2回まとめて納付することができるようになります。毎月の納付手続きが不要になるため、経理事務の負担を軽減できます。

設立後すぐに役員報酬や給与の支払いが始まる場合は、早めに提出を検討すると良いでしょう。

5. 棚卸資産の評価方法の届出書

商品を仕入れて販売する事業など、棚卸資産(期末に保有している商品や原材料など)がある場合に提出します。棚卸資産の評価方法によって、期末の売上原価や利益、ひいては法人税額が変わるため、事前に評価方法を選択し届出を行います。届出がない場合は、法定評価方法が適用されます。

6. 減価償却資産の償却方法の届出書

建物、機械、車両運搬具など、事業のために使用する固定資産(減価償却資産)の取得価額を、耐用年数に応じて費用(減価償却費)として配分する方法(償却方法)を選択・届出します。届出がない場合は、法定償却方法が適用されます。

7. 消費税関連の届出書(該当する場合)

消費税の課税事業者となる場合や、設立初年度から消費税の還付を受けたい場合などに提出が必要です。設立時の資本金の額が1,000万円以上の場合や、設立1期目から課税事業者となることを選択する場合などが該当します。消費税については別途詳細な記事がありますので、そちらも合わせてご確認ください。

各届出の提出期限と注意点

上記でご紹介した主な届出の提出先と期限をまとめます。

| 届出書類 | 主な提出先 | 提出期限 | 主な目的・補足 | | :--------------------------------------------- | :----------------------------- | :------------------------------------------------------------------------------------------------------ | :----------------------------------------------------------------------------- | | 法人設立届出書 | 税務署、都道府県税事務所、市町村 | 設立の日以後2ヶ月以内 | 法人設立の通知、基本情報の提供 | | 青色申告の承認申請書 | 税務署 | 設立第1期目:設立後3ヶ月を経過した日と1期事業年度終了日のいずれか早い日の前日
2期目以降:事業年度開始日の前日 | 青色申告によるメリット享受 | | 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 開設後1ヶ月以内 | 源泉徴収義務の発生通知 | | 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 税務署 | 適用を受けたい月の前月末日まで | 源泉所得税の納付を年2回にまとめる | | 棚卸資産の評価方法の届出書 | 税務署 | 設立第1期の確定申告書の提出期限まで | 棚卸資産の評価方法の選択 | | 減価償却資産の償却方法の届出書 | 税務署 | 設立第1期の確定申告書の提出期限まで | 減価償却資産の償却方法の選択 | | 消費税課税事業者選択届出書等(該当する場合) | 税務署 | 各届出書に定められた期限 | 消費税の納税義務、課税方式の選択等 |

提出期限は書類によって異なりますが、設立から2ヶ月以内や、最初の事業年度終了まで、あるいは特定の事象が発生してから1ヶ月以内など、比較的短期間に設定されているものが多いです。提出が遅れると不利益が生じる可能性があるため、設立登記が完了したら速やかに、提出が必要な書類を確認し、準備を進めることが重要です。

これらの書類は、国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。記載方法についても、同サイトや各提出先のウェブサイトで詳細な手引きが提供されています。

提出を忘れるとどうなるのか

これらの届出を定められた期限内に提出しない場合、以下のような影響が出ることがあります。

このように、届出書類の提出は、単なる手続きではなく、その後の法人経理や納税に直接影響を与える重要なステップです。

まとめ:設立後の届出は計画的に

法人設立後の税務署等への各種届出は、会社が事業を行う上で避けては通れない重要な手続きです。個人事業主としての経験があっても、提出先の多さや書類の種類の違いに戸惑うかもしれません。

しかし、これらの届出を適切に行うことは、青色申告によるメリットを享受し、日々の経理業務や将来の納税をスムーズに進めるための第一歩となります。設立登記が完了したら、どの書類が自社に必要なのかを確認し、それぞれの提出期限を把握して計画的に準備を進めましょう。

不明な点があれば、税務署の窓口に相談したり、税理士に依頼したりすることも有効な選択肢です。新しい法人の門出を清々しく迎えるためにも、設立後の手続きを丁寧に進めていきましょう。