はじめての法人決算:個人事業の確定申告との違いと準備
はじめに
法人を設立された起業家の皆様、おめでとうございます。事業が軌道に乗り、いよいよ最初の法人決算が近づいてきたという方もいらっしゃるかもしれません。個人事業主として確定申告の経験があっても、法人決算となると手続きや考え方が異なり、不安を感じることも少なくないかと存じます。
この記事では、初めて法人決算に臨む方を対象に、個人事業の確定申告との主な違いや、決算に向けて知っておくべき基本的な知識、そして日々の経理で意識しておきたい準備のポイントを分かりやすく解説いたします。
法人決算とは? 個人事業の確定申告との基本的な違い
個人事業主が行う確定申告は、主にその年の所得を計算し、所得税や住民税、個人事業税などの税額を確定・申告・納付する手続きです。これに対し、法人の決算は、事業年度(通常1年間)の経営成績と財政状態を明らかにし、それに基づいて法人税、法人住民税、法人事業税などの税額を計算・申告・納付する手続きです。
主な違いは以下の点が挙げられます。
- 目的: 個人事業の確定申告は所得税などの計算が主ですが、法人決算は税金計算だけでなく、企業の成績(損益計算書)や財産状況(貸借対照表)をまとめた「決算書」を作成し、会社の状態を把握し、関係者(株主、金融機関など)に示す役割も持ちます。
- 提出書類: 個人事業は主に確定申告書と青色申告決算書または収支内訳書を提出します。法人は、決算書(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュ・フロー計算書など)、法人税申告書、法人事業概況説明書など、より多くの書類を作成・提出する必要があります。
- 会計原則: 個人事業の確定申告は、所得税法に基づく所得計算が中心です。法人は、一般的に「企業会計原則」に則った会計処理を行い、その会計結果に基づいて税務調整を行い法人税等を計算します。
- 税金の種類: 個人事業は所得税、住民税、個人事業税などが主な税金です。法人は、所得に対してかかる「法人税」「法人住民税」「法人事業税」のほか、事業内容によっては「消費税」などが課税されます。
- 申告期限: 個人事業の所得税確定申告期限は、原則として毎年3月15日です。法人の法人税申告期限は、原則として各事業年度終了の日から2ヶ月以内となります。
これらの違いから、法人決算は個人事業の確定申告よりも複雑であり、専門的な知識がより求められる傾向があります。
初めての法人決算で押さえるべき基本
初めての法人決算を進めるにあたって、以下の点を押さえておきましょう。
事業年度の確認
ご自身の会社の事業年度(決算期)がいつからいつまでなのかを確認します。定款で定めた事業年度の最終日が決算日となります。例えば、4月1日から3月31日までの事業年度であれば、3月31日を決算日とし、そこから原則2ヶ月以内(この場合は5月31日)が申告・納税期限となります。
経理処理の締め
事業年度末までの全ての取引(売上、仕入、経費の支払いなど)を会計帳簿に漏れなく記録し、集計します。これが「帳簿の締め」です。日々の経理処理が正確に行われているかが、この段階で非常に重要になります。
決算整理仕訳の実施
事業年度末の正確な財政状態と経営成績を把握するために行う特別な仕訳を「決算整理仕訳」と呼びます。個人事業の確定申告では簡易的な処理で済ませていた項目も、法人会計では適切に処理する必要があります。代表的な例として、以下のようなものがあります。
- 減価償却費: 固定資産(建物、機械、車両など)の取得費用を、使用できる期間に応じて費用計上する処理です。
- 売上原価の計算: 期末の棚卸資産(商品や製品の在庫)を評価し、売上に対応する仕入費用(売上原価)を確定します。
- 引当金の設定: 将来発生する可能性のある費用や損失に備えて、当期の費用として計上する処理です(例: 退職給付引当金、貸倒引当金など)。
- 未払費用・前払費用の整理: サービスの提供を受けたがまだ支払っていない費用(未払費用)、またはサービスを受けていないが既に支払った費用(前払費用)などを整理します。
これらの決算整理仕訳を行うことで、会計帳簿上の数値が最終的な決算書の作成に必要な形に整えられます。
決算書の作成
決算整理仕訳が完了した帳簿データをもとに、決算書を作成します。主要な決算書は以下の通りです。
- 貸借対照表(B/S:Balance Sheet): 決算日時点の会社の財産状況(資産、負債、純資産)を示します。個人事業の青色申告決算書でも作成しますが、法人の場合はより詳細な分類が必要です。
- 損益計算書(P/L:Profit and Loss Statement): 事業年度1年間の収益と費用、そして最終的な利益(または損失)を示します。
- 株主資本等変動計算書: 純資産の部に変動があった場合にその内容を示します。
- 個別注記表: 決算書に記載された情報について、補足説明を加えるものです。
これらの書類を作成することで、会社の経営状況や財政状態が数字で明確になります。
法人税等申告書の作成と申告・納税
作成した決算書をもとに、法人税、法人住民税、法人事業税などの税額を計算し、それぞれの申告書を作成します。税額計算にあたっては、会計上の利益から税法上のルールに基づいた調整(加算・減算)を行う必要があり、これが税務申告の難しさの一つです。
申告書が完成したら、税務署、都道府県、市区町村に提出し、計算された税金を納付します。申告期限と納税期限は原則として同じ日です。
決算に向けての日々の準備と注意点
初めての法人決算を円滑に進めるためには、決算期になってから慌てるのではなく、日々の経理処理から意識しておくことが大切です。
- 証憑類の整理・保管: 領収書、請求書、契約書、通帳のコピーなどの証憑類は、取引が発生するたびに日付順などに整理し、保管しておきましょう。法人では税務調査などでこれらの提示を求められる可能性があり、個人事業以上に厳密な管理が推奨されます。
- 法人口座・事業用クレジットカードの一元化: 事業に関する入出金や支払いは、必ず法人口座や事業用クレジットカードを利用するように徹底します。個人のお金と事業のお金を明確に分離することで、経費の漏れや混同を防ぎ、決算時の集計作業が格段に効率化されます。
- 会計ソフトの活用: 会計ソフトを導入し、日々の取引を入力することをお勧めします。法人会計に対応したソフトであれば、勘定科目の設定や仕訳入力、決算書の作成までを効率的に行えます。個人事業で使用していたソフトが法人に対応しているか確認するか、法人向けのソフトを検討してください。
- 役員報酬の確定と源泉徴収の確認: 役員報酬は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に金額を決定し、その金額を1年間変更できません(一定の要件を満たす場合を除く)。また、役員報酬は所得税の源泉徴収の対象となります。毎月、源泉徴収額を計算し、適切に納付しているかを確認します。
- 資金繰りの確認: 法人税等の納付は、原則として事業年度終了から2ヶ月以内に行う必要があります。納税資金を事前に見積もり、資金繰りに問題がないか定期的に確認しておくことが重要です。
- 税理士との連携: 初めての法人決算は、個人事業の経験があっても専門知識が必要となる場面が多くあります。税理士に依頼することで、正確な申告ができるだけでなく、税務に関する相談や節税に関するアドバイスも受けられます。決算期が近づく前、できれば事業年度の途中から相談を始めるのが理想的です。
まとめ
法人化後初めて迎える決算は、個人事業の確定申告とは異なる点が多く、戸惑うこともあるかと存じます。しかし、法人決算は会社の状態を把握し、今後の経営に活かすためにも非常に重要なプロセスです。
日々の経理処理を正確に行い、証憑類をきちんと整理するなど、決算に向けての準備を計画的に進めることが成功の鍵となります。会計ソフトの活用や、必要に応じて税理士のような専門家のサポートを得ることも、初めての決算を乗り越える上で有効な手段です。
この記事が、皆様の初めての法人決算に向けた不安を少しでも和らげ、スムーズな手続きの一助となれば幸いです。